紫根の石けん
半年以上前から紫根(しこん)を漬けこんでいたオリーブオイル。
目の覚めるような真っ赤な紫根オイルに
泡立ちや固さ、使用感を考えて、
ココナツオイルやシアバター、ひまし油をブレンド。
水酸化ナトリウムを入れると、とたんに深い青に。
この化学変化がいつもワクワクなのです。
ひたすらぐるぐるかき回して、
とろみが出てくる状態になったら型入れします。
大切なのは温度管理。
私は石けんにカラーラントなどの複雑な工程で
合成された着色料は使っていません。
肌に使い、環境に流すものだから。
自然の美しい色あいを大切にしたいから。
ハーブのパウダーを使ったりオイルに漬けこむなどの
ごくシンプルな手法で色を出します。
しかしながら自然の色は出にくく、褪色しやすいのです。
だからこそ、こんな自然のままの深く美しい色が出ると、
もう小躍りしたいくらい嬉しいのです。
紫根は古来よりゴマ油や豚脂を混ぜて「紫雲膏」という軟膏として
外傷、火傷、凍傷など皮膚への薬として使われてきました。
私が以前勤めていた保健室でも紫雲膏は愛用していました。
冬場のあかぎれの生徒達に塗ってあげると血行も良くなり、
保湿効果も高く、とても治りが良かったのを覚えています。
最近はアンチエイジングや美肌にも効果ありと人気ですね。
草木染めの原料として奈良平安時代にも使用されています。
「時代劇でお殿様が病気のときに、頭に紫のハチマキを巻くでしょう?
あれは紫根染めの薬効で熱や頭痛を鎮めるためなのよ。」
そう教えてくださった、私が大好きな勝山の町並み保存地区を彩る
のれんを作るひのき草木染織工房の加納容子さん。
調べてみると紫根は解熱、涼血解毒の生薬としても利用されるとか。
「服用・服薬」という言葉の本来の意味は、
薬を飲むことではなく、草木染めの自然の持つ薬効を
取り入れた「服」を身にまとうことから「服用・服薬」だそうです。
昔の人は茜染めの下着で冷えを防いだり、
藍染めを虫除けや消臭に使用していました。
現代のような化学薬品を体に入れるのは本当の
「服用・服薬」ではないのです。
先人の智慧は素晴らしいなぁ。
そんな素晴らしい草花のエネルギーを、
石けんにもぎゅっと閉じ込めたい。
ただ、そんな紫根のとれる紫草(日本ムラサキ)は
かつての乱獲と環境の変化により、
もう野生種は絶滅危惧種だそうです。
日本でも細々と栽培されているのですが、
栽培は容易ではないとのこと。
生育条件は、冷涼で空気のきれいなところ、
昼夜の温度差のあるところ・・・って真庭にぴったりかも。
古来より高貴な人だけが身にまとうことができた紫。
絶滅危惧種で薬効もあるので、この紫根石けんは
デイリー使いのために大量生産するのではなく
大切に大切に、少しずつ使いたいと思います。
いつか地元産の紫根で、
石けんを作る日を夢見て・・・。